遺言とは?

遺言は遺される人たちへの思いやり

自分の死後、「財産を自分の思ったとおりに処分してほしい」「残された家族には円満に遺産分けしてほしい」とは、誰もが願うことでしょう。

しかし遺言がなかったために、遺産分けをめぐって遺族間で骨肉の争いになってしまうこともよくあります。

このように相続が「争続・争族」になってしまう大きな理由は、「亡くなった人の意思」が見えないことにあります。

「亡くなった人の意思」がはっきりしていれば、遺族の方の納得度も高まります。

遺言は「自分の死後はこうしてほしい」という「意思」をはっきりと残すものです。

遺言は相続において最も優先されますので、遺言書を作成しておくことによって「争続・争族」を未然に防ぐことができます。

以前は、その必要性はわかっていても実際に遺言書を残す人は少なかったのですが、最近では年々関心が高まり、遺言書を書く人が増えています。

「相続」は誰にでもやってきます。

遺される人たちのためにも、遺言について考えてみましょう。

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遺言で出来ること

遺言でできることは法律で定められています。

詳しくは以下をご覧ください。

遺言で出来ること

「遺言でできること」には、

  • 「遺言でなければできないこと」
  • 「遺言でも(生前でも)できること」

があります。

遺言でなければできないこと

  • 未成年後見人の指定

    ※遺言者の子が未成年で、遺言者の死により親権者がいなくなるときに、その未成年後見人を指定できます。
  • 未成年後見監督人の指定

    ※未成年後見人を指定する場合、その監督人を指定できます。
  • 相続分の指定およびその委託

    ※各相続人の遺産の相続分を指定することができます。(法定相続分に優先します)
  • 遺産分割方法の指定およびその指定の委託

    ※相続人ごとに相続させる財産を特定できます。(例:土地建物は妻に、預貯金は長男に)
  • 遺産分割の禁止

    ※相続開始のときから5年を限度として遺産分割を禁止することができます。(相続人間にトラブルが予想されるときに「冷却期間」をおきたいとき、未成年の子を成人してから協議に参加させたいときに有効な場合があります)

    ※遺産分割の禁止は相続人全員による協議や審判によっても可能です(禁止期間の限度は同じく5年)
  • 遺産分割における共同相続人間の担保責任の指定

    ※財産に過不足や瑕疵があった場合の処理方法を指定できます。
  • 遺言執行者の指定およびその指定の委託

    ※遺言執行者を指定すれば、相続発生と同時に遺言執行者は、相続財産の管理や処分に関する権利を持つことになります。(相続人は勝手に相続財産を処分することができなくなります)
  • 遺留分減殺方法の指定

    ※どの財産から減殺していくのか、その順番と割合を指定できます。(通常は遺贈財産→生前贈与財産の順番とされています)
  • 遺贈

    ※遺言で相続人以外の第三者に相続財産の一部又は全部を贈与することができます。

遺言でも(生前でも)できること

  • 子の認知

    ※婚姻外でできた子を認知して相続人の資格を与えることができます。
  • 相続人の廃除および廃除の取消

    ※相続人の中に自分に対して虐待や重大な侮辱、著しい非行をした人がいる場合、その相続人を相続から外すことができます。(遺言でも生前でも家庭裁判所への廃除請求が必要です)
  • 特別受益者の相続分の指定

    ※相続人が特定の生前贈与又は遺贈を受ける(特別受益といいます)とその贈与分は相続分から差し引かれますが、遺言によって差し引かれないようにすることができます。
  • 祭祀承継者の指定

    ※お墓や仏壇、仏具などを承継し、先祖を祭る行事を主宰する人を指定できます。
  • 財団法人設立のための寄付行為

    ※財団法人設立のために、財産の給付を指定することができます。
  • 信託の設定

    ※財産を信託して、その財産の管理、運用をしてもらうことができます。

上記以外のことを遺言書に記載しても、法的な効力はありません。

(遺言書に書けること以外の死後事務(親族や関係者への連絡や医療費などの債務弁済など)については、死後事務委任契約をすることができます)

しかしながら、遺言の内容についての理由や、家族への想いの言葉を遺すことは大切なことです。

こういった言葉は「付言事項」として遺言書に記載することができます。

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遺言のメリット

遺言のメリットは「法定相続にとらわれず、自分の意思を相続に反映させることができる」ことです。

その結果、遺産分割での相続人間のトラブルを未然に防いだり、特にお世話になった人に多くの財産を遺したりすることが出来ます。

「遺言でできること」をふまえて、どういった場合に遺言のメリットが活かされるのかご覧下さい。

法定相続人以外の人や団体に財産を遺したいとき

特にお世話になった人や、内縁関係の妻、長年尽くしてくれた息子の嫁、家業を継いでくれた娘婿、相続権のない孫や兄弟姉妹、学校や公益団体などの団体に遺言で財産を遺すことができます。

(「遺贈」といいます)

相続財産に不動産があるとき

相続財産に不動産がある場合、法定相続するとその不動産は共有名義になります。

不動産が共有名義になると、次世代・次々世代の権利関係が複雑になるなど、後々のトラブルにつながる可能性が生じます。

こういった場合に遺言で「不動産は妻に、預貯金は長男に」など指定して不動産を単独名義にすることによって、将来のトラブルを未然に防ぐことができます。

事業用資産を後継者に継がせたいとき

被相続人が自営業者で、事業用資産として土地・建物や自社株式などを保有していた場合で、後継者ではない相続人が事業用資産を取得すると、後々の事業経営に支障を来たす可能性が高くなります。

こういった場合は遺言で「事業用資産は後継者である長男に、自宅や預貯金は次男に」など指定することによって事業用資産を後継者に集中させることができます。

相続人が配偶者と兄弟姉妹のみのとき

最も相続でもめるケースといえます。

配偶者と兄弟姉妹とは血縁関係がないため、どうしても争いに発展しやすいのかもしれません。

こういった場合も、あらかじめ遺言で「全財産を妻に」「不動産は妻に、預貯金は兄弟姉妹に」など指定することでトラブルを防ぐことができます。

なお兄弟姉妹には遺留分は認められていませんので、遺留分への配慮は不要です。

前妻の子と後妻の子がいるとき

前妻の子の親権者が前妻であっても、その子が被相続人の実子である以上相続人となります。

そして前記同様、前妻の子と後妻には血縁関係がないためどうしても争いに発展することが多いといえます。

この場合も、遺言で遺言者の意思をしっかり表示することが効果的です。

婚姻外の子に財産を遺したいとき

家族への気兼ねから生前に認知できなかった子がいるとき、遺言で認知することができます。

認知した子の法定相続分は実子の2分の1ですが、遺言で遺産分割の方法や相続分を指定することによって、それより多く相続させることもできます。

本来なら生前に認知をして家族の理解を得ておくことがベストですが、やむをえない場合は遺言でこういったことも可能です。

なお、認知せずにその子に財産を遺贈することを遺言することもできます。

相続人が誰もいないとき

この場合、遺言がなければ財産は国庫に帰属してしまいます。

お世話になった人や団体に財産を遺したいときは、遺言でその旨を指定することができます。


このように遺言によって、「財産を継がせたい人に継がせる」「死後の遺族間のトラブルをできるだけ防ぐ」ことができます。

ただし、場合によっては「遺留分」に注意が必要です。

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遺留分について

遺留分とは、被相続人が贈与や遺贈によって処分することのできない一定の割合のことをいいます。

言い換えると、

遺留分は「法定相続人の最低限の相続分を保証するもの」

ともいえます。

被相続人は、遺言によって財産を死後も自由に処分することができます。特定の相続人に対してはもちろんのこと、第三者に対しても財産の全てを与えることを、遺言によって自由に行うことができます。

しかし、被相続人が遺言によって全て自由に指定することを認めてしまうと、生計を共にしてきた妻子や、扶養・療養し続けてきた親、祖父母などの相続人の生活が脅かされるという結果になるおそれがあります。

こういった法定相続人の最低限の相続分が保障されるように、法律で遺留分が規定されています。

遺留分が保障される相続人は?

遺留分が認められる相続人は、

「配偶者・子・父母(直系尊属)」

です。

兄弟姉妹には遺留分は認められていませんので、注意が必要です。

遺留分の割合は?

大まかにいうと、

・相続人に配偶者又は子が含まれる場合

→法定相続分×2分の1

・相続人が父母(直系尊属)のみの場合

→法定相続分×3分の1

となります。

こうして算出された割合に基礎財産を掛けた額を遺留分額といいます。

「基礎財産」は、【相続開始時財産(遺贈を含む)+一定の贈与-債務】で計算されます。

「一定の贈与」とは、

  1. 特別受益に該当する贈与(婚姻・養子縁組・生計の資本のための贈与)
  2. 遺留分侵害について双方が知ってされた贈与
  3. 上記以外で相続開始1年以内にされた贈与

のことをいいます。

遺留分額の具体的な計算例は以下のとおりとなります。

相続人 対象者 法定相続分 遺留分の割合 遺留分額

(基礎財産に対する割合)
配偶者のみ 配偶者 全て 2分の1 2分の1
子1人のみ 全て 2分の1 2分の1
配偶者と子1人 配偶者 2分の1 2分の1 4分の1
2分の1 2分の1 4分の1
配偶者と子2人 配偶者 2分の1 2分の1 4分の1
子A 4分の1 2分の1 8分の1
子B 4分の1 2分の1 8分の1
配偶者と父母 配偶者 3分の2 2分の1 3分の1
6分の1 2分の1 12分の1
6分の1 2分の1 12分の1
父母のみ 2分の1 3分の1 6分の1
2分の1 3分の1 6分の1

そして、

各相続人の遺留分額-相続によって得た額+債務の負担額

で算出した額を遺留分侵害額といい、これが実際に遺留分減殺請求できる額になります。

遺留分減殺請求とは?

遺留分を侵害されている相続人は、遺留分を侵害している受遺者や受贈者、他の相続人に対して遺留分侵害額を請求することができます。

これを、遺留分減殺請求といいます。

減殺請求の方法

減殺請求の方法はとくに決まりはありません。

相手方に対する意思表示で効力が発生しますので、裁判上で請求する必要もありません。

実際には、請求した証拠を残すために内容証明郵便で請求することが一般的です。

減殺請求の効果

相手方に請求の意思表示が届いた時点で、遺留分を侵害している遺贈や贈与の効力が失われます。

結果、遺留分を限度に遺留分権利者にその権利が属することになります。

請求を受けた相手方は、現物を返還するか、価額を弁償しなければなりません。

話し合いで解決することが基本ですが、相手方が話し合いに応じないときや話し合いで解決できないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。

時効に注意!

遺留分減殺請求権は、

  • 贈与、遺贈の存在+それが減殺できるものと知ったときから1年
  • 相続開始のときから10年

で時効消滅します。

時効消滅までに請求した証拠を残すためにも、内容証明郵便が有効になります。

遺留分の放棄

遺留分の放棄は相続開始前でも家庭裁判所の許可を受けることによってすることができます。(相続放棄は相続開始後のみ可能です)

相続開始後の遺留分放棄は、家庭裁判所の許可はいりません。

遺留分の放棄をすれば遺留分減殺請求をすることはできませんが、相続の権利を失うわけではありません。

遺留分を放棄しても、遺言なしに相続が開始すれば相続人としての権利を有します。


遺留分について考慮すべき点は、

  • 遺言者は相続人の遺留分を考慮して遺言書を書くこと
  • 遺留分侵害を受けた相続人はできるだけ早く請求の意思表示をすること

です。

遺留分を侵害する遺言書を書いても無効になるわけではありませんが、侵害を受けた相続人から減殺請求を受けることによって「相続トラブルを未然に防ぐ」という遺言の目的が果たせなくなる可能性があります。

例えば、不動産をお世話になった人に遺贈しても、減殺請求を受けたその人が価額弁償するだけの資金がなければ、結局その不動産を手放さざるを得ないこともありえます。

また、遺留分侵害を受けた相続人は早めに意思表示をしなければ、時効にかかって請求権が消滅してしまいますので注意が必要です。

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遺言書の種類

遺言書は財産の処分にかかわる大切な書類です。

そのため、遺言書の種類も法律できちんと定められています。

遺言書をつくる前に、まずは遺言書の種類を確認しておきましょう。

遺言書の種類

遺言書には以下の三種類があります

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言

それぞれに、メリット・デメリットがあります。

自筆証書遺言

一言で言うと、自分で作成する遺言書のことです。

全文自筆・年月日の記入・署名と押印が条件になります。

代筆はもちろん、パソコン・ワープロでの作成も認められません。

メリット

  1. 作成に費用がかかりません。
  2. 遺言の存在・内容を秘密にすることができます。

デメリット

  1. 様式の不備によって法的に無効なるおそれがあります。
  2. 遺言書が盗難、紛失、改ざん、破棄される可能性があります。
  3. 遺言書の存在を秘密にしていた場合、死後に遺言書が発見されない可能性があります。
  4. 遺言者の自筆かどうか争いが発生することがあります。
  5. 家庭裁判所での検認手続が必要です。(原則として遺言者の出生から死亡までの戸籍や相続人全員の戸籍が必要です。また、検認手続を怠ると過料の制裁があります)

公正証書遺言

公正証書遺言とは、遺言書を公正証書にして公証人役場に保管してもらう方法です。

遺言者が公証人役場に出向き、証人2人以上立会いのうえ遺言を口述し、公証人がそれを筆記します。

公証人は遺言者と証人に遺言を読み聞かせ、遺言者と証人は筆記の正確さを承認したうえで署名・実印押印します。

これに公証人が方式にしたがって作成された旨を書き加え、署名捺印して公正証書遺言が完成します。

公正証書遺言の原本は公証人役場で保管され、遺言者には正本が交付されます。

※推定相続人(相続人になる可能性のある人)および受遺者本人とその配偶者および直系血族・未成年者・公証人の関係者などは証人になることができません。

※言葉や耳の不自由な人などは、通訳を介して作成することができます。

※寝たきりの人など、公証人役場に出向くことが困難な場合は、公証人に出張してもらうこともできます。(料金は別途必要です)

メリット

  1. 公証人があらかじめ遺言の内容をチェックしますので、法的に無効となる心配がありません。
  2. 保管が確実です。公正証書遺言の原本は公証人役場に保管されますので、遺言書の盗難、紛失、改ざん、破棄のおそれがなくなります。
  3. 遺言者が保管している正本を紛失しても再発行が可能です。
  4. 検認手続が不要です。
  5. 自書する必要がありません。

デメリット

  1. 費用がかかります。(公証人手数料など)
  2. 証人2名が必要です。
  3. 完全には秘密にできません。(遺言書の存在と内容が公証人と証人に知られます)
  4. 手続に手間がかかります。

秘密証書遺言

作成済の遺言書を封印し、公証人役場に持っていき「間違いなく本人の遺言」であることを証明をしてもらうものが秘密証書遺言です。

遺言の内容は公証人や証人に知られませんので、内容の秘密は守ることができます。

メリット

  1. 遺言書全文を自筆する必要がありません。(署名と押印は必要です)
  2. 遺言の内容を秘密にすることができます。

デメリット

  1. 様式不備によって法的に無効なるおそれがあります。
  2. 費用がかかります。(公証人手数料など)
  3. 秘密証書遺言は自分で保管しますので、紛失や盗難のおそれがあります。
  4. 遺言書の存在を秘密にしていた場合、死後に遺言書が発見されない可能性があります。
  5. 証人2名が必要です。
  6. 遺言の存在自体は公証人と証人に知られます
  7. 家庭裁判所での検認手続が必要です。(検認手続を怠ると、過料の制裁があります)

以上、3種類の遺言書を確認しました。

他にも一般危急時遺言(死亡の危急に迫った人がする遺言)などがありますが、前もって自分の死後に備えてつくる遺言としては上記3種類ということになります。

それぞれにメリット・デメリットがありますので、ご自身の状況や考えと照らし合わせて方法を選びましょう。

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遺言書作成のポイント

遺言の種類同様、遺言書の書き方も遺言の種類ごとに法律で定められています。

特に自筆証書遺言は様式不備によって法的に無効となる場合もありますので、注意が必要です。

ここでは、遺言書の大半を占める自筆証書遺言と公正証書遺言の書き方について確認していきましょう。

遺言書共通のポイント

「誰に」「何を」をしっかり記載することが大切です。

「誰に」

  • 家族であれば、「妻○○」「長男○○」など名前を明記します。
  • 第三者へ遺贈するような場合は、「住所○○ 氏名○○」と記載しましょう。

「何を」

  • 不動産は登記簿謄本どおりに書く必要があります。

    土地なら所在・地番・地目・地積、建物なら所在・地番・種類・構造・床面積を表示します。
  • 預貯金は銀行名と支店名を特定して記載します。
  • 株式は証券会社名または株式発行会社を記載します。

※その他の財産はまとめて「その他の残余の遺産を全て○○に相続させる」と記載することもできます。この記載方法は、本人が遺言書に書き漏らしたわずかな財産についての争いを防ぐためにも有効です。

その他

  • 「付言事項」(遺族への想い、遺言内容の理由など)は必須事項ではないですが、遺族へのラストメッセージとして記載することをおすすめします。

    また遺言内容の理由を書くことで相続人に遺言者の意思が伝わり、承継がスムーズに進む効果もあります。

自筆証書遺言のつくりかた

自筆証書遺言の書き方のポイントは以下の通りです。

全文を自筆で書く

代筆やワープロ・パソコンでの作成は無効です

年月日を明記する

特定できる年月日であることが必要です。

「平成○年○月」や「平成○年○月吉日」では無効になります。

また、日付印の使用も無効です。

署名と押印をする

本人を特定できる署名であれば有効ですが、極力戸籍上の氏名で署名しましょう。

押印は認印でもいいですが、本人性を高めるためにも実印が望ましいです。

加除訂正は正確に

加除訂正のしかたは一般文書より厳格に定められています。

2本線での訂正・訂正印の押印・加除訂正した旨の付記を忘れないようにしましょう。

その他

様式(縦書き・横書き)や用紙の種類、大きさ、筆記用具は自由です。

また、封入・封印も自由ですが、秘密保持の観点からも封入・封印しておくほうがよいでしょう。

公正証書遺言のつくりかた

公正証書遺言を作成するには、遺言書の案以外に様々な書面を用意する必要があります。

それをふまえて、公正証書遺言の流れを見ていきましょう。

1.相続人調査

まず、ご自身の戸籍謄本を取得します。

あわせて、ご自身と推定相続人の続柄がわかる戸籍謄本を取得し、ご自身と推定相続人の身分関係を確定します。

(場合によっては、除籍謄本や改製原戸籍の取得も必要になります)

身分関係が確定すれば相続関係図を作成して相続関係を整理しましょう。

2.財産の調査

ご自身のプラス財産とマイナス財産を書き出して、財産の全体像を把握しておきましょう。

マイナス財産とは、債務や未払金、保証債務などをいいます。

保証債務は忘れがちなので、注意しましょう。

不動産があれば、登記簿謄本・固定資産税評価証明書も取得しておきましょう。

3.分割案を考える

財産をどのように分けるかを、まずは大まかに考えてみましょう。

そして、相続人間の公平感などを考慮して調整していきます。

※ここまでは、自筆証書遺言を作成する場合も同様のステップをふむことをおすすめします。遺言書への添付は不要ですが、推定相続人や相続財産の把握・整理がしやすくなります。

4.遺言書の案をつくる

「誰に」「何を」を明確に記載します。

5.必要書類をそろえる

公正証書遺言作成に必要な基本的な書類は以下の通りです。

  1. 遺言書の案
  2. ご自身の印鑑証明
  3. ご自身と、ご自身と推定相続人の続柄がわかる戸籍謄本など
  4. 推定相続人以外に遺贈する場合は、その人の住民票
  5. 不動産の登記簿謄本・固定資産税評価証明書
  6. 通帳、有価証券明細などのコピーなど
  7. 証人の住所・氏名・生年月日・職業を記載した書面
  8. 遺言執行者の住所・氏名・生年月日・職業を記載した書面(遺言執行者を指定する場合)

※詳細はお近くの公証人役場に問合せたほうが良いでしょう。

6.上記書類を公証人役場に提出

このとき、証書作成期日の指定を受けます。

7.公証人役場で公正証書遺言作成

指定日に、証人2人とともに公証人役場に赴きます。

ご自身は実印、証人は認印を持参します。

※推定相続人(相続人になる可能性のある人)および受遺者本人とその配偶者および直系血族・未成年者・公証人の関係者などは証人になることができません。

※証人は親しい友人がいればその方にお願いすることが望ましいですが、財産内容や家庭内の事情を知られることはあまり好ましくありません。そのため守秘義務のある専門家に依頼することが望ましいでしょう。

遺言書の見直し

遺言書は作成したあとでも適宜見直すことが必要です。

  • 資産の変動があったとき
  • 推定相続人の変動(子が死亡したなど)があったとき
  • 相続に関する法律の改正があったとき
  • 定期的な見直し(5年に一度など)

のタイミングで見直しましょう。


遺言書作成は法律面などでいろいろ制約はありますが、まずは気軽に書いてみることをおすすめします。

一度書いてみて心配になれば専門家に聞いてみましょう。

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遺言書の検認について

公正証書遺言以外の遺言書(自筆証書遺言書・秘密証書遺言など)の保管者や、これを発見した相続人は、遺言者が亡くなったことを知った後、速やかに管轄の家庭裁判所に検認を請求しなければなりません。

また、封印されている遺言書は家庭裁判所で相続人等の立会いのもと開封する必要があります。

この検認手続きを怠った場合、過料の罰則がありますので注意が必要です。

ちなみに、検認とは検認日における遺言書の形状等について検証し、遺言書の内容について証拠保全をし、偽造や変造を防止するための手続きですので、遺言の有効・無効を判断するものではありません。

申立する人

遺言書の保管者、または遺言書を発見した相続人が申立人となります。

申立をする先

遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立をします。

申立に必要な書類

  • 遺言書検認申立書
  • 遺言者・相続人全員の戸籍謄本(遺言者の戸籍謄本は、出生からお亡くなりまでのものが必要です)
    ※相続の状態によって必要な戸籍が異なる場合があります。
  • その他、申立手数料(収入印紙)・予納郵便切手が必要となります。

申立の流れ

1.遺言書検認の申立

必要書類を揃え、管轄の家庭裁判所に申立します。

2.検認期日の通知

申立から2~3週間ほどで相続人に検認期日が通知されます。

3.検認期日

家庭裁判所にて相続人立会いのうえで検認手続きがなされます。

遺言書・印鑑等の持参が必要です。

なお、検認手続きは相続人全員が揃わなくても行われます。

4.検認済証明書の申請

検認手続きの後、検認済証明書の申請をします。

通常検認手続き当日に申請を行い、即日交付・遺言書に合綴されます。

これで、遺言の執行を行うことが可能になります。


検認手続き自体は難しいものではありませんが、戸籍等を揃える手間や時間はかかります。

相続の状況によってはかなりの手間がかかる場合もあり、検認手続きをされた方の中には、ご自身の遺言は公正証書遺言で作成したいと仰る方も多くいらっしゃいます。

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遺言Q&A

Q.未成年者は遺言をすることができますか?

A.未成年者でも、満15歳以上であれば遺言することは可能です。

未成年者が法律行為をするには通常親権者の同意が必要ですが、遺言などの身分関係に関するものは親権者の同意は不要です。

また、親権者が代理して遺言することは認められません。

Q.認知症の人は遺言をすることができますか?

A.遺言時に意思能力(自分の遺言が法律的にどのような効果を生じるかを理解する能力)があれば、その遺言は有効とされます。

意思能力の有無は遺言時の本人の具体的状況によって判断されますので、認知症の人だから常に意思能力が認められない、というわけではありません。

なお、成年後見の審判を受けた人(成年被後見人)は、意思能力が一時回復したときには医師2名以上の立会いのもと、その証明を得て遺言することができます。

また未成年者同様、代理人による同意や代理で遺言することはできません。

Q.夫婦で一緒に遺言書を書きたいのですが・・・

A.ご夫婦で一緒に遺言書を書くこと自体は何の問題もありませんし、むしろそうされるべきだと思います。

但し、遺言書は別々に書かなければなりません。

一枚の遺言書で2人以上の人が遺言した場合、その遺言は無効になりますので、注意が必要です。

Q.ペットに財産を遺贈することはできますか?

A.遺贈を受けることができるのは、人または法人に限られますので、ペットに財産を遺贈することはできません。

ただし、家族や親しい人にペットと飼育費用を遺贈して、代わりに死後にペットの面倒を見てもらう、と遺言することは可能です。(負担付遺贈といいます)

このような負担付遺贈をする場合は、事前に相手の意思を確認しておいたほうがよいでしょう。

負担付遺贈とは何ですか?

A.簡単にいうと「〇〇を遺贈する代わりに〇〇をしてほしい」と遺言することです。

例えば、「Aに自宅を遺贈する。ただし受遺者Aは遺言者の妻Bに対し生活費として月額○○万円を支払うこと」や「Aに○○万円を遺贈する。ただしAは遺言者のペットBを扶養介護すること」などと遺言することが可能です。

ただし、負担付遺贈の受遺者は利益を超える負担については責任はありません。

例えば、「Aに10万円を遺贈する。ただしAは遺言者のペットBを扶養介護すること」と遺言した場合、受遺者のAさんは飼育費用が10万円を超えた段階で飼育義務がなくなることになります。

また、あまりにも負担が大きすぎると遺贈放棄されることもあります。

負担付遺贈をする場合は、事前に相手の意思を確認しておいたほうがよいでしょう。

ちなみに、負担付遺贈を受けた人が負担内容を履行しない場合、相続人は受遺者に対して期間を定めて催告をしたうえで家庭裁判所に遺言の取消を請求したり、裁判所に訴えて強制執行させることができます。

遺言執行者とは?

A.遺言執行者とは、遺言の内容の実現を行う人のことをいいます。

具体的には、遺言の内容に基づいて、相続財産目録の調製及び交付・相続財産の管理/処分・相続人/受遺者への財産交付などの手続を行います。

遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し、相続人の財産処分権は制限されますので、利害関係のない人を遺言執行者に指定することによって遺言内容をより忠実に実現することができます。

また、遺言執行には専門的な法律知識が必要な場合もありますので、弁護士や行政書士などの専門家をあらかじめ遺言執行者として指定しておいてもよいでしょう。

なお、遺言執行者の指定は基本的には遺言ですることになります。(未成年者・破産者は遺言執行者となることができません)

Q.以前に書いた遺言書の内容を変更したいのですが・・・

A.遺言の内容の取消・変更はいつでもすることができます。

例えば、前の遺言の一部を取り消す遺言や相反する遺言をすることによって前の遺言のその一部が撤回されたことになり、代わって新しい遺言が有効になります。

ただし、遺言の枚数が増えると様式不備によって無効となる確率が高まりますし、遺言者ご自身が遺言内容を把握しずらくなりますので、前の遺言書を破棄(破棄によって遺言全部が撤回されたことになります)して新たに遺言書を作成することをおすすめします。

公正証書遺言の場合は、原本は公証人役場にありますので、公証人役場で一旦取消の手続をしたうえで新たに公正証書遺言を作成することになります。

(公正証書遺言でも、自筆証書遺言の様式で遺言を撤回することができますが、公正証書遺言の大きなメリットである法的効力・保管の確実性が損なわれることになりますので、おすすめできません)

遺贈を受けましたが放棄することはできますか?

A.遺贈の放棄は可能です。

例えば、負担付遺贈を受けたが負担内容が納得できないような場合は遺贈放棄を検討することになります。

包括遺贈(相続財産の全部または割合で示した一部を遺贈)の放棄は、相続放棄同様に相続開始後3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければ単純承認になってしまいますが、特定遺贈(特定の財産の遺贈)の放棄は、相続開始後いつしてもよく、方法も遺贈義務者(相続人)に対する意思表示で足りるとされています。

ただし、一度放棄した後に撤回することは認められていませんので、注意が必要です。

Q.Aさんあてに財産を与える遺言書をつくっていましたがAさんが先に亡くなりました・・・

A.残念ながら相続開始前に受遺者が亡くなった場合、遺言はその部分について無効になります。

結果、無効となった部分は法定相続されることになります。

新たに遺言書を作成したほうがよいでしょう。

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カテゴリー:遺言について

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